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完全不定期気まぐれ綴り。フタオ視点。
浮かんだ端から書き殴っているため話はつながってません。

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2008.08.19 本日の更新
フタオ4~8話アップ。
恥ずかしいので最終話まで一気に更新してしまいました。

おまけもあるので後日アップします。

2008.08.19 フタオ・8
  8・じゃあな

 夜、オレはすきを見てばーちゃんちをぬけだした。ウチの近くとは違って、ここの夜道は自販機の光もマンションの明かりもなくて本当に真っ暗だ。少しびびったけど、そんなのかまっていられない。とにかく夢中で森へと走った。
「うわっ!」
 足もとがよく見えないせいか、思いっきりこけた。夕方まで降ってた雨がボコボコの道路にたまってて、水がびちゃっとはねた。すりむいた手のひらから血が滲んでく。
「ってぇ……」
 こらえてた涙が、ふいに溢れてきた。
 みんなはさっきの怖いフタオが本当のフタオで、オレはだまされてたんだって言った。でも、オレと遊んでたときのフタオが……ずっと遊ぼうって言ったフタオがウソだったなんて思えない。
 ウソなのはさっきのフタオだ。あのバカ。オレはだまされねーぞ!
 手の甲で目をゴシゴシこすって、オレはまた走り出した。
 あれからどのくらい経っただろう。まだフタオは居るだろうか。本当に出て行くつもりなんだろうか。
 ……いや、行かせねーよ! 約束したんだ。来年も再来年も遊ぶって。
 森まで来ると、オレは大声でフタオを呼んだ。声は闇の中にむなしく響いただけで、何の反応も返ってこなかった。オレは意を決して真っ暗闇の森の中に入っていった。
 ほこらの古びた鳥居の上に、フタオが座っていた。
「よかった……まだ居た……」
 急いで走ってきたせいで息がだいぶ上がってしまった。もっといろいろ言いたいのに、とりあえずは鳥居の前で肩で息をすることしかできなかった。
 フタオは目を細めてこっちを見てから、ひらりと降りてきて言った。
「バカ、子供がこんな夜中にうろつくもんじゃないぜ。おみっちゃんちに戻んな。」
「やだね! フタオだって子供だろ」
 フタオはちょっと笑った。笑い方に元気はないけど、さっきみたいな怖さもなかった。
「戻れって。オレと居るところを見られたら面倒だ」
「やだっつってんだろ!」
 フタオは叱られてる子供みたいな顔になった。
「……やっぱり怒ってるか? ごめんな、昼間はお前に……あんなこと言って」
「そんなのどうでもいーよ! それよりお前、ほんとに出てくのか!?」
「うん、そうするよ」
「なんでだよっ……!」
 やっぱりフタオはオレの知ってるフタオだった。人を喰うなんて言う化け物じゃない。なんでフタオが出て行かなきゃいけないんだよ!?
「お前は何も悪くないだろ! みんな勘違いしてるんだ! オレがみんなに言うよ、ちゃんと説得する、わかってもらえるまでちゃんと……だからっ……!」
「余計なことすんなって。さっきのオレの名演技、無駄にすんなよな」
 人が必死に言ってんのに、フタオのヤツはへらへら笑って言った。あーもうイライラする!
「冗談言ってる場合かよ! 誤解されたまんまでいいのか!? オレはやだね! だってフタオは悪くない!!」
「……いいんだ。もういいんだよショーヤ」
 フタオはちょっと目を伏せて、寂しげに笑って言った。
「自分が人間たちにとってどういう存在かなんて、十分わかってたよ。……オレな、ショーヤ。友達なんかいなかった。わかるだろ、人間はオレにびびってるし……同類なんかもっとダメだ。人間よりオレのことがよくわかるぶん、それこそ鬼でも見るみたいに怖がるか、媚びへつらってくるか、張り合って向かってくるやつばっかりだった。だからオレはお前と遊べて嬉しかった。それだけで十分なんだ。ここは……気に入ってたけど、もう、潮時さ」
 しめった風が吹き抜けて、木々がざわざわ音を立てた。木の葉についてた雨のしずくがパラパラ降ってくる。ほおにかかったしずくと一緒に、目に浮かぶ涙もぬぐった。
「約束したろ……来年も会おうって……来年も再来年もずっと、ずっとここで遊ぼうって……」
 目が熱い。鼻の奥がツーンとする。気を緩めたら一気に溢れそうだ。
「……うん、ごめんな」
「あやまんなよ!」
 あやまってほしくなんかない。
 目からぼろぼろ涙が落ちた。これじゃ雨つぶでごまかせない。
「ばーか。泣くなよショーヤ、男だろ」
 そう言って笑うフタオだって泣きそうな目になってる。
「バカはフタオだよ! 守り神がいなくなったら、ここはどうなるんだよ!?」
 フタオは真顔になって、そっと鳥居に触れて、静かに言った。
「言ったろ、オレは神様なんかじゃない。この森に棲んでただけの、ただの狐の化け物さ」
 そう言ったフタオの周りの景色が、急にユラッと歪んだ。一瞬そこだけ見えなくなってから、元通りに戻ったとき、そこにいたのは一匹の狐だった。きれいな真っ白い毛並み……白と言うより銀の方が近いかも知れない。雲の切れ間から顔を出した月が、その毛並みをキラキラ輝かせて、とても、きれいだった。そして不可思議な二本のしっぽ。そうか、これが本当のフタオの姿なんだ。
 フタオはニッと笑った。顔は人間じゃなくても、いつものあの笑い方だった。
「楽しかったぜショーヤ。オレは最後にいいやつに会えた。ありがとな。」
そう言うと、フタオは空高く跳び上がった。
「フタオ!!」
「じゃあな!」
 木の幹を蹴って、蹴って、高く高く跳び上がって、空に吸い込まれて、消えた。



 フタオはいなくなった。



 それから……お父さんが退院して、オレはウチに帰った。帰ってからは宿題の残りを片づけるのでいっぱいいっぱいだった。
 そうして小学校最後の夏は過ぎて、今はいつも通りの学校生活が、いつも通りに続いている。
 友達にも誰にもフタオのことは話さなかった。話せばウソになってしまいそうな気がした。こうして普通の毎日に戻った今では、自分でもときどきウソだったみたいに思えてくる。
 けど、たしかにそれは現実だった。鮮やかだったあの夏、あの森に、たしかにフタオは存在していた。


 オレはあの夏を、けして忘れない。

                    

                                  おわり。



2008.08.19 フタオ・7
   7・補足


 このことは翔也は知らない。いや、すべてを正しく知る者は誰も居なかった。ただ、そのときの一連の出来事は、フタオが森を追われるに至った重要な経緯として、語っておく必要がある。
 夜のことだった。フタオが森を追われる前日……翔也がフタオと「おみっちゃん」の話をしたり、町会長から二尾狐の話を聞いたりしたあの日の夜。
 森の中のほこらの所に、男がひとり、我が物顔で腰掛けて、動物の肉やら木の実やらを喰らっていた。そして、男の前には森に棲む動物や霊たちが集まって……いや、集められていた。彼らは皆おびえていた。男の言いなりになって、この森のことを教えたり自分たちの食糧を差し出したりしていた。
 そのときフタオは森の外にいた。月の美しさに惹かれて、夜の空中散歩をしていたのだ。しかし途中で妙な胸騒ぎを感じ、森に戻ることにした。そうしてほこらに戻ってみると、そこでは例の男がふんぞりかえっている。
「なんだぁ? ちょっと留守にしたすきにおかしなことになってるな」
 フタオが声をかけると、男はふてぶてしい薄笑いを浮かべた。
「ハジメマシテ。てめえがここの主の二尾狐か」
「あんたは?」
「オレはイチモンジ。てめえと同じ妖狐だよ」
「ふうん。……で? よそんちで何調子づいてるのさ、おじさん」
「くくくっ、そんなおっかねえ目をするなよ。お仲間同士仲良くやろうぜ」
「一緒にしないでほしいな」
 フタオは動物や霊たちに「行きな」と合図した。彼らは一目散にその場を離れた。
 フタオはすたすたと男の前に歩み寄って言った。
「出てってくれない? あんたみたいのに居られると困るんだ」
「フン、森と村の平和のために、ってか?」
「まあね。一応はオレ、守り神ってことになってるからさ」
 フタオは男をまっすぐ見据えて言った。男は不快な笑いを漏らした。
「守り神ねえ。くっくっく、こりゃおかしい」
 男は笑いながら、ぺっ、とほこらに唾を吐いた。
「……おじさん、もしかしてケンカ売ってるの?」
「いいや、ケンカなんか売らねえよ。てめえのなりがガキだからって、その力を見抜けねえほどバカじゃねえよオレは。やり合えばオレも無事じゃすまねえだろうさ」
「じゃあおとなしく出てってよ」
 男はなおもくっくっ笑いながら、食べ終わった後の骨を投げ捨てた。
「なあ二尾狐さまよぉ、世知辛い世の中になったよなあ。厳しい住宅難でオレたちは絶滅寸前だ。だからよ、神だか何だか知らねえが、こういうメシ付き物件を独り占めされちゃたまんねえの」
「メシ付き物件、ね」
 フタオは苦笑した。
「人里近くの深い森なんて最高だよ。てめえが気に入ってんのもわかる。安心しな、てめえがキープしてる獲物にゃ手出ししねえからよ」
「何のこと?」
「昼間てめえと一緒にいたガキさ。うまそうだよなー、食欲そそるぜ」
 フタオは男を鋭くにらみつけた。
「おいオッサン! ショーヤに手ぇ出したらただじゃおかねーぜ」
「だぁから手出ししねえって言ってんだろ。ま、気持ちはわかるぜ。誰にも渡したくねえよなあ。後でゆっくり喰うんだろ?」
「喰わねーよ! ショーヤは友達だ」
 フタオはきっぱり言い切った。男はあっけにとられたようにフタオを見ていたが、やがて腹を抱えて笑い出した。
「なんだオイ、言うに事欠いてともだちだとよ! 妖狐と人間が! あー、腹痛ぇ、まったく、笑かしてくれるねえー!」
「ああ笑えよ。オレはショーヤも村の人間も喰う気はない。あんたに喰わせてやる気もない。ここは諦めてさっさとどっか行きな」
 男から笑みが消えた。
「そうかい。それじゃしゃあねえわ、とりあえず……」
 男は変化を解いて、大きくて薄汚れた狐の姿になった。顔の中央を一本の古傷が横切っている。イチモンジの名はここからきたのだろう。
「てめえは邪魔だ! 消えてくれや!!」




 ほんの一瞬で勝負は着いた。
 立っていたのはフタオだった。あくびをひとつして、何事もなかったように寝床に着いた。これで終わったはずだった。
 かろうじて一命をとりとめていたイチモンジは二尾狐を恨んだ。フタオが狙ってやったことだが……イチモンジは生きてはいるもののとても妖力など使える状態にはなかった。これから先、普通の狐として生きることはできるが、今更そんなのは我慢ならなかった。惨めに生き延びるくらいなら、あの二尾狐のヤツに復讐してくたばってやる、と思った。何とかして、何らかの形で……。
 イチモンジは残る力を振り絞って、住民たちに夢を通して語りかけた。二尾狐はおまえらを狙っている、早くしないとあのぼうずが喰われちまうぞ、と。
 翌日、この声を聞いた住民は誰ともなくこの不気味なお告げを話題にし、みんなも同じ声を聞いたと知って震え上がった。その日ちょうど用事でここに来た「ゆかねえ」は、その話を聞くと顔面蒼白になって、自分と翔也が出会った謎の少年、フタオのことを話した。
「あいつがそうよ……翔也くんが食べられちゃう!」
 住民は立ち上がった。翔也を、村を、救うために。本当の人喰いは「お告げ」の声の主で、そいつを退治したのがこれから追い出そうとしている二尾狐だったなんて、知る由もなく。


2008.08.19 フタオ・6
   6・出て行け

 それは突然だった。
 オレたちが遊んでいるとにわかに物音が近づいてきた。草をかき分け、小枝を踏みしめて、大勢の人間が走り寄ってくる音。
「翔也くん!」
 ふいに背後から名前を呼ばれた。ゆかねえの声だ。
 振り返ると村の大人がいっぱい居た。ばーちゃん、スイカのおじさん、町会長さん、おとなりのおばさん、それから他の知らない人たち……と……なんだあれ? なんだかお坊さんみたいなかっこの人まで居る。みんなやたらとこわばった顔つきで、バットとかフライパンとか持ってるし……。
「どうしたの? みんなして血相変えて……」
「何のんきなこと言ってんだい! おいで翔也! 早くその子から離れるんだよ!!」
 ばーちゃんがすごい剣幕で言った。な、なんだなんだ!? わけわかんねーぞ!
 オレは事態が飲み込めないままバカみたいにポカンと口を開けて、フタオとみんなの顔を交互に見ていた。フタオはオレと同じく驚いた顔をしている。みんなは怖い顔でオレたちをにらんで……いや、フタオをにらんでいる……?
「フタオ……!」
 オレはなんだか無性に不安になってフタオの腕をつかんだ。フタオは「ああ、そういうこと……」とぽつりと言った。何もかも悟ったような表情だった。
「二尾狐……」
 町会長さんが低く静かに、重々しい口調で言った。
「この村では貴様を二百年間、おびえながらも丁重にまつってきた。我々は貴様を神とし……また本当にそうなってくれてものと信じていた。だがそれは間違っていたようだ。貴様は神などではない、妖怪に変わりない」
「……ああ、否定はしないよ」
 フタオは妙に落ち着いた声で答えた。こんなときになんだけど、本当にほれぼれするくらいいい声だ。けど、次の町会長さんの一言で、オレのそんなのんきさは一気に吹っ飛んだ。
「ここから出て行け、化け物!」
 みんなは手にした武器(?)をぎゅっと握ってフタオを見ている。フタオは表情一つ変えずに黙っている。オレだけひとり、狼狽した。
「な、なに言ってんの!? フタオはここの神様じゃん! ……いやっ、神様じゃなくたって……ここを見守ってくれてんだろ!? 何も悪いことなんかしてないだろ!? なんで追い出すんだよ!?」
「だまされたのよ翔也くん! そいつは翔也くんを食べようとしてたのよ!」
 …………は? た、食べる??? 
「ちょっとゆかねえ……何それ、ギャグ?」
「大マジだぼうず! こいつはおめえを喰う気だったんだ! オレらのことも喰う気だったかもしれねえ!」
 何言ってんのさ、おじさん。冗談きついよ。
「そうだろう二尾狐!!」
 町会長さんが憎らしそうに怒鳴った。
 なんだ、なんだよこの展開!? 一体何がどうなってこうなるんだ!? オレが知らない間に何か起きたんだろうか。何か……とんでもない何かが……。
 フタオはうつむいていた。ふいにその口の端が上がった。「ははっ。」と小さな笑いを漏らした。
「フタオ……?」
 フタオはオレの手をふりほどいて、うつむいたままみんなの方に歩み寄った。先頭にいた町会長さんが少し後ずさりをした。フタオは顔を上げた。綺麗な目が不気味な光を帯びた。
「ああ、ばれちまったもんはしょーがねーな。このガキ、あんまりうまそうなんで喰ってやろうと思ってたんだ」
「……え?」
 オレは自分の耳を疑った。何……? 何言ってんだ、フタオ?
「とうとう本性表したか!!」
 村の大人が吐き捨てるように言った。
 オレは黙っていられなかった。顔がこわばって、おかしくもないのに笑ったような顔になってしまっているのがわかる。
「なんだよフタオ……何変なこと言ってんだよ!? ねえみんな! こいつが言ってることウソだよ、大ウソ!! フタオはオレの友達なんだ! 悪いヤツじゃない! ほんとはみんなとも仲良くしたいんだよ!」
 みんな、怖い目のままでオレを見ていた。ただ、ばーちゃんだけが、心配そうな、哀しくて優しい目でオレを見ていた。ばーちゃんのそんな顔、生まれて初めて見た……。
 フタオは……目の端でオレを見た。ぞっとするほど冷たい目で。
「うるせーよクソガキ。たった10年ぽっちしか生きてねえてめえにオレの何がわかる? 勝手にオレを語んじゃねーよ」
 ……泣きそうになった。オレは必死で涙をこらえて怒鳴った。たぶん、ものすごく変な顔になってたと思う。
「じゃあなんですぐ食べなかったんだよ!? あんな楽しそうに遊んでたじゃん!! 食べる気なんかなかったんだろ!? なあ、もうやめろよそんなウソ! みんなはだませてもオレはだませねーぞ!!」
「ばーか。暇つぶしにきまってんだろ。すぐ喰うのは勿体ねえから遊んでやってたんだ。……ったく、ついてねーよ。そろそろいただくかってときにとんだ邪魔が入っちまった」
 フタオはにやっと笑った。本当に狐のような顔だった。
「命拾いしたな、小僧」
 ばーちゃんが駆け寄ってきて、呆然と立ちつくすオレの肩を抱いてフタオから離れた。フタオはふうっと溜息をついた。
「しっかし、ガキ一匹喰うのに失敗とは、オレもヤキが回ったよ。まあいいさ、そろそろここも飽きてきた。お望み通り立ち去ってやる」
「……本当だろうな!?」
「ああ本当さ。もういいだろ、用が済んだならとっとと消えてくれ。目障りだ」
 村のみんなは喜び合って戻っていった。
「ほら翔也、行くよ」
 ばーちゃんに手を引かれても、オレはその場を動かなかった。黙ってフタオを見ていた。
「聞こえなかったのか小僧、とっとと失せろ!」
 ばーちゃんが無理矢理オレを引っ張って森から出た。
 遊んでたときには晴れていた空を、いつのまにか灰色の雲が覆っていた。ぽつっ、ぽつっと大粒の雨が落ちてきて、あっという間にどしゃぶりになった。
 オレは、フタオが泣いてるような気がした。
                       


2008.08.19 フタオ・5
   5・GOD OR MONSTER

 夕方になって帰ろうとしたとき、ちょうど近くを人が歩いてきた。森から出てきたオレはその人の真ん前に出てしまった。なんだか真面目そうなおじさんだ。
「驚いたな。こんな所から人が出てくるなんて」
 そのおじさんは目を丸くして言った。
「君、見かけない子だね。夏休みで遊びに来てるのかな?」
「え、うん。おばーちゃんち……佐藤ミツ子の家に……」
「佐藤さんのお孫さんなんだ? おじさんはこのへんの町会長をしてるんだ。佐藤さんにはいつもお世話になってるよ」
 オレと行く方向が同じらしくて、一緒に歩きながらいろいろ話しかけてくる。
「このへんは気に入った? あんまり田舎でびっくりするだろう」
「うん、ちょっとね。でもけっこう好きだよ。なんかほら、夕方聞こえるやつ……今も鳴いてるこれ、この声もウチよりよく聞こえるし」
「ああ、ひぐらしか。おじさんも好きだよ、日本の夏って感じがするよね」
 どうでもいいけどこの町会長さん、なーんか先生っぽい感じの人だ。
「しかし驚いたよ。森の中にいたのかい? あの森のことは聞いた?」
「うん。二尾狐っていう神様が居てオバケもいっぱいのオバケ森、でしょ?」
「ははは、オバケ森か。知ってて怖くないのかい?」
 怖くなんかない。なんたってその神様と友達だし。他にオバケもいるみたいだけど、悪いヤツはいないから心配いらないってフタオが言ってた。……なんて、そんなことこの人には言えないけどさ。
「ねえ町会長さん、みんなはあそこを……二尾狐を怖がってるの?」
「そうだね。ときどきほこらの管理に入る意外は誰も近寄らないよ」
「なんで怖いの? ここを守ってくれる神様だろ?」
「そういうことにしたんだよ、昔の人がね。むかーしむかし、森に現れた二本の尻尾の狐の化け物に村人は恐れおののき、退治しようとしたらしい」
「退治!?」
「うん。だが二尾狐は傷一つ負わなかった。そこで村人たちは、神としてまつることで二尾狐のご機嫌をとろうとしたんだね。恐れたからこそ丁重にまつった。それから二百年、神としてあがめられてきたと言うより、怖い化け物として恐れられてきたって言った方が正しいかな」
 ……なんだよそれ。
「ねえ、みんなそうなの? 中にはそんな昔話信じないって人とか、二尾狐は怖いヤツじゃないって思ってる人とか……いるんじゃないの?」
「うーん、どうだろう。ここの人はちっちゃい頃から二尾狐の話を聞かされて育ってるからね、みんな信じてるんじゃないかな」
 なるほどね、それじゃフタオも村の人となんかしゃべれないわけだ。でもフタオは、ほんとは……。
「オレは、二尾狐は悪いヤツじゃなくて守り神だと思うな。だって二百年間ずっとここを見守ってくれてるんだから」
 オレがそう言うと町会長さんはちょっと驚いたようにこっちを見てから、ふっと笑って「そうだといいね」って言った。だーかーらぁ、そうだといいじゃなくてそうなんだってば!
 次の日になってもまだ釈然としない気持ちが残っていた。フタオが怖い化け物? 神様ってことにしてご機嫌取ってる? なんだよそれ。フタオが人に怖がられるようなことをするなんて思えない。
 どうしてもすっきりしないから、オレはちょっと遠慮がちにフタオに言ってみた。
「昨日、町会長って人に、『二尾狐』のこと聞いたんだけどさ……」
「オレのこと? 勝手に守り神にした化け物だって?」
 フタオが意外にあっけらかんと言うもんだから、オレも思わず遠慮がなくなった。
「なんか変じゃねー!? 勝手に怖がったりまつってみたり。聞いててちょっとムカついた!」
「ばーか。どっちかっつーとお前のが変なんだぜショーヤ。普通は怖がられても仕方ないの」
「だってフタオ、なんか怖がられることしたの!?」
 フタオはちょっと困ったようにあごをぽりぽりかいた。
「そうだなぁ……たしかあのとき……なんか知らないけど急に人間たちに囲まれて一斉攻撃なんかされたから、少し頭に来てやり返したけど……」
「やり返したって……殺したの!?」
「まさか! そんなことするかよ。ほんのちょっと吹っ飛ばしてやっただけ。それでも十分びびったらしくて、あんなほこらなんかこさえてくれちゃったよ。でもなショーヤ、オレは何もしなくたって怖がられる。そういうもんさ」
「……そういうもんなの?」
「そういうもんなの。いちいち腹立ててたらきりがないぜ。そうだ、このへんでは親の言うことを聞かない子供に何て言うか知ってるか? 『二尾狐に手足取られちゃうぞ』って言うんだぜ。おかしいよなー」
 笑えるかー!! きっととんでもなくぶすっとした顔をしてたんだと思う。フタオが困った顔でオレをのぞき込んだ。
「ひょっとして本気で怒ったか? ……ごめん」
「なんでフタオがあやまるんだよ」
 フタオはぶすーっとしてるオレを見て、ふっと笑って言った。
「ほんっといいやつだなお前。オレはべつに気にしてないからお前も怒らなくていいよ。機嫌直せって」
 なだめるように言って、オレの頭をぽんぽんってした。……ってオイ、なんでオレがなぐさめられてんだよ。
 とりあえずその話はそれで終わりにした。言っても仕方のないイヤな話をするより、楽しく遊んだ方がいい気がした。もうすぐ夏休みが終わる。その前にお父さんが退院してウチに帰ることになるかもしれない。お父さんには早く良くなってもらいたいけど……もうあんまりフタオとは遊べないだろう。
 でもオレはこのときはまだ、まさかこの日が最後になるなんて思ってなかったんだ。
 そう、予想できるはずもなかった。この日、これから起こることなんて。                 


2008.08.19 フタオ・4
   4・狐の神様

 その夜、布団に入っても寝付けなかったオレは、起きあがって台所でお米をといでたばーちゃんに尋ねてみた。
「ねえねえばーちゃん!」
「なんだい、まだ起きてるのかい」
「ねえっ、ばーちゃんが言ってた神様って、どんなやつ!?」
「ええ? あんた全然興味なさそうだったじゃないか」
「いいから教えて!」
 ばーちゃんは怪訝そうに首を傾げて答えた。
「二尾狐様だよ。二本の尻尾と不思議な力を持つ狐の神様さ。二百年くらい前からここの守り神とされてるそうだね」
「ふたおぎつね……」
 オイオイ、マジで!? まんまだよ……。
「ねえ、そいつって子供?」
「ええ、子供? さあねえ、神様に大人とか子供とかってあるのかねえ?」
「……ありがとばーちゃん、おやすみなさい」
 間違いない。フタオのことだよ絶対。うん、そんな気がする。100パー間違いないって……いや、94パー……76パー……待てよ、もっと低い……? だって……ねえ。そんな非現実的な話ってある? 今はもう21世紀だよ? ……あー、でもやっぱり……。
 結局その夜はあんまり眠れなかった。
 次の日、いつものように遊びに来たフタオに、オレは思い切って訊いてみることにした。
 フタオは指で帽子をくるくる回しながら、口笛を吹いて歩いている。
「……ねえ、ひとつ訊いていい?」
「んー? なんだショーヤ?」
「あのさフタオ……お前って、ひょっとして……」
 フタオは足を止めて、真顔になってオレを見た。
「神様……なのか……?」
 オレの質問にフタオはすぐには答えなかった。一瞬の沈黙があった。やがてフタオはくすくす笑って歩き出した。
「そんなんじゃねーよ。何言ってんだよショーヤ」
「……だよなっ!」
 オレもつられて笑った。一気に緊張が解けた。そうだよ、馬鹿げてる。フタオが守り神の二尾狐だなんてさ。
「神なんてのは村のヤツが勝手に言ってる気休めのこじつけさ。オレはただここが気に入って居着いてるうちに、気が付くと二百年経ってただけ」
 フタオは笑いながらさらっと言った。あんまり普通に言うから、一瞬聞き流しそうになってしまった。
「……え!? 二百年!?」
「なんだよ、気付いてるんじゃなかったのか?」
「じゃっ、じゃあ、やっぱりお前……!?」
 フタオはニッと笑ってオレの手をひいた。
「そんなことより川へ行こうぜ。冷たくて気持ちいいぞ」




 フタオの正体を知ってからも、オレはそれまで通り毎日フタオと遊んだ。それはフタオにとっては意外だったみたいで、あるときぽつりと言ってきた。
「変わってんなー、お前って」
「オレが? フタオよりは変わってないと思うけど」
「怖くないのか? オレのこと……」
「え、怖くねーよべつに。なんで?」
「なんでって……気味悪いとか思わないのか?」
「べつに。だってお前悪いヤツじゃないし、全然神様っぽくないし、遊んでると人間と変わんないもん」
「でもオレ、狐の化け物だぞ」
「なんだよしつこいなー、怖がってほしいのかよ。オレはフタオを怖がったりしねーよ。ずっと遊ぼうって言ったじゃん」
 オレがそう言うと、フタオは驚いた顔をした。それからぷっと笑って言った。
「ほんっと変わったヤツ! オレ、二百年ちょいの時間を過ごしてきたけど、お前みたいなヤツ初めてだよ」
 ……そうかなあ? オレは普通なつもりだけど。
「それより気になるのはさー、お前、子供じゃん。なんで二百年も生きてて子供なの?」
「あー、それは、オレには体がないからさ」
「あるじゃんここに」
「そうそう。オレほどにもなると肉体の有無なんて大した問題じゃないんだな。わかるかいショーヤくん」
「わけわかんねー!」
 フタオはひひっと笑った。オレも笑った。
「二百年かー、長いよなー……。だって二百年前つったら、オレのばーちゃんのばーちゃんの……そのまたばーちゃんも生まれてなくない?」
「えっ、そんなに!? へー、そりゃ長いや……」
 フタオは自分のことなのに他人事みたいな反応をした。
「ばーちゃんっていえば、ウチのばーちゃん、昔は『おみっちゃん』って呼ばれてたんだな」
「ああ、おみっちゃんはオレが見てきた中で一番かわいかったよ。おさげ髪がよく似合ってた」
「へえ……ばーちゃんがねえ」
 今のおっかないばーちゃんからはとてもじゃないけど想像つかない。
「ああ、ほんっっっっとにかわいかった」
「しゃべったこととかないの?」
「そっ、そりゃそーさお前っ、村一番の美少女だぞ!? 気安く声なんかかけられるかよ!」
 フタオはちょっと赤くなって言った。オイオイ。
「じゃあさ、オレのお母さん……佐藤和代は? あと清美おばさんとか。昔の写真けっこうかわいかったけど、しゃべったりした?」
「え、……ああ、かわいかった。でもオレ、髪の長いコが好きなんだ」
「オイオイオイ! なーにが神様だよまったく!」
 オレは思わず笑ってしまった。けどフタオは思ったより笑ってなくて…なんだか少しかげのある微笑を浮かべて言った。
「まあ、それは冗談にしてもさ……。村のヤツは『二尾狐』にびびってるから……」
 あっ……、と、オレは口をつぐんだ。
 そうか、だからオレやゆかねえの前に現れたんだ。フタオはずっと……寂しかったのかもしれない。             


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