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※ 【天屋通り】のお花見イベント参加用に下書きしたものです。  →完成版はこちら




「いや驚いたわい。お前さんがこういった場に顔を出すなんて、珍しいこともあるもんじゃの。それもこんなに陽の高いうちから」
「まぁ、気分すよ。大将んとこの酒が飲み放題と聞いちゃあねえ。それに、どこぞのお姫さんがベソかいてるのが聞こえたんで」
「だははは! 兎にも角にも、明日は大雪注意じゃな!」
「もー、じいさん、岩久さんに失礼だろ」
「いやまぁ、違いないっすね。はは」
 岩久はそう軽く笑って流すと、俯いてしがみついたままのヒメ子を連れて、みんなから少し離れた場所に腰を下ろした。
「ほら、ひぃ。いい加減顔を上げなさいな」
「ひぃ、ベソなんかかいてないもん」
「そいじゃあ半ベソだ」
「かいてないもん」
 ヒメ子はふくれっ面で岩久を見上げた。
「じんくん、なんで来たの? タルイから寝てるって言ったのに」
「あァまったくだ、せっかくの休みだってのにねえ。あーしはもう、ここまで来ただけでヘトヘトなんで、そう突っかかんないでほしいんすけどね」
「べつに突っかかってなんk」
 ヒメ子が言い終えるより先に、その口にサクラにもらったおにぎりを押し込んで、呟くように岩久は言った。
「悪かったね、ひぃ。あーしとしたことが、一番覚えておくべき『物語』を忘れていたよ」
 岩久のその言葉を聞いて、ヒメ子は「あっ」と思った。
 そういえば、岩久はよく言っている。「いわくつきの品とは、どれも『物語』を持った物だ。自分が扱っているのは『物そのもの』ではなくて、それが持つ『物語』なのだ」、と。そして彼がそれを口にするときはきまって、何かを振り返るような、どこか寂しげな様子であることをヒメ子は思い出した。
「ひぃの『物語』を思い出したら、桜の下でひぃが何を思うか、何となくわかった。だからここに来た」
 日傘とサンバイザーに覆われたその下で、岩久が今どんな表情をしているのか、ヒメ子の位置からは伺い知ることができない。けれど、その口調の中に、彼の普段あまり覗かせることのない面が滲んでいるのがわかる。
 もう一度強い風が吹いた。岩久は舞い散る桜吹雪を見つめながら、風に掻き消されそうな声で、独り言のようにぽつりと呟いた。
「消えないよなぁ、記憶は。見たものも、聞いたものも、想いもみんな、跡形もなく消しちまえりゃいいのになぁ」
 ヒメ子の両目から涙が溢れた。なぜだかはヒメ子にもわからない。ただ、解析できない感情が次から次から溢れて、涙が止まらなかった。岩久は黙って、ヒメ子の頭をそっと撫でた。

 ヒメ子の『物語』は、岩久が知っている。
 それは自分にとって、とても安心できることだとヒメ子は思った。
 けれど。岩久は。
 厄介物として店に持ち込まれた品々のたくさんの『物語』を読み解いて、それを扱う彼自身の『物語』は、誰が分かち合ってくれるのだろう。
 そんなことを思いながら、涙が涸れるまで泣き続けた。



あ、落ちがない。
どーんまい。

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 お花見会場には多くの組合員が集まり、満開の桜の天蓋の下で宴を楽しんでいた。
「おーい待たせたなっ、酒持ってきたぞー! ついでにヒメコも拾ってきた!」
 会場にニトロの威勢のいい声が響き渡り、一同の視線が一斉に集まった。
「ヒメちゃんだー! 待ってたんですよー!」
 ヒメ子に真っ先に駆け寄って抱きついたのは、ニトロが持ってきた酒樽の提供元であり岩久の行きつけの店でもある、BAR 5のイストである。
「い、いっちゃん、苦しいよぉ…」
「こらイスト、お前大概にしろっ! ヒメ子ちゃん困ってるだろ」
「わーっ、ヒメちゃんごめんなさいであります! そうだっ、お詫びに、吉牛さんの牛乳を使って新開発した『こどもビール牛乳割り』飲むですかっ?」
「な、お前いつの間に……美味いのかそれ……?」
「サー! 試飲はまだであります!」
「味見してないもん人に飲ますなー!」
「だははは! それよりワシの作った『ノンアルコール・毛生え養命酒牛乳割り』はどうじゃ?」
「お前もだよじじぃ!」
「だはははは!」
 三人による相変わらずの漫才のような掛け合いを見ているうちに、いじけていたヒメ子の気持ちもだんだんと上向いてきて、ほんの五分も経てばすっかり明るいヒメ子に戻っていた。
「はい、ヒメ子ちゃん。特製お花見おにぎりだよ」
「ヒメちん、こっちは特製お花見豆腐大島桜モデルですー」
「桜ロールケーキもあるのよ」
「菜の花おひたしと天ぷらもあるよー。って、ちょっとヒメ子ちゃんには渋すぎかなっ」
「えへへっ、ごちそういっぱいだ。ありがとー」
 ヒメ子は勧められたもの全部をニコニコ顔で平らげた。ヒメ子には空腹もないが満腹もないので、食べようと思えば底なしに食べられてしまう。ただ、「やりすぎると不審がられるから注意しなさい」と岩久に言い聞かされているため、一応ヒメ子としてはそれなりに気を付けてはいるようである。
 夢中になって食べて、食べ終わって急にやることがなくなると、満開の桜に包まれた目の前の光景が、まるで写真か何かのような、別の世界のもののように思えた。頭上を覆う桜の花々と、その下に集まる笑顔、笑い声。絵に描いたような美しい風景。絵に描いたような楽しい団欒。
 ざぁっと強めの風が吹いた。たくさんの花びらが舞い散って目の前の光景を掻き消し、かわりに魂の奥の奥に焼き付いたあの光景が、声が、想いが蘇る。


 ねえ、ひぃにも見える? 桜が満開だよ。とっても綺麗だよ……


 ごめんね。ひぃは、あなたの言ってる「ひぃ」じゃないの。
 ごめんね。それでも、ひぃはひぃなの。ここにいるの。
 ひぃは人形。あなたに大事にされて、こころを持った人形。
 ひぃは人形。死んでしまったあなたの妹に似せた、あなたの妹の代わりの人形。
 でも、ごめんね。ひぃはひぃなの。ここにいるひぃは、あなたの妹の「ひぃ」じゃないの。
 ごめんね。ごめんね。それでも、ひぃは……



「あァ、こりゃあ見事なもんだ」

 声が聞こえた。遠い昔の声ではない。よく聞き慣れた、ヒメ子の一番好きな声。
 振り返ると、宇宙服のような防護服に、眼鏡屋アンジェミーで特注したサンバイザー、つば広帽子に日傘という出で立ちの男が一人、桜を見上げて佇んでいた。
「だっ、誰だオマエ!? 不審者か!?」
 警戒心を顕わにニトロが言った。一同に緊張が走る。しかしヒメ子だけはその人物が誰かを知っていた。
「じんくんっ!」
 弾かれたようにヒメコが駆け寄り、防護服の上からぎゅっとしがみつく。そんなヒメ子の頭をぽんぽんとしながら一同を見渡すと、岩久はペコリと一礼し、場の空気など全く意に介さないようなマイペースな調子で言った。
「あ、どーも、みなさんお揃いで。いつもお世話になっとります、古物商の岩久です」



いつの間にやら日が暮れようとしている件。

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 怒って店を飛び出したヒメ子は、お花見会場に向かうでもなく、あてもなく通りを歩いていた。さっきまでは早くお花見に行きたくてウズウズしていたのに、こうして一人で飛び出してみたら、なんだか急に気持ちがしぼんでしまったようだった。
 春の陽はすっかり南に上り、まだ芽吹いたばかりの草木にたっぷりと恵みを注いでいる。みんなは今頃お昼を食べているところだろうか。実体が人形であるヒメ子は人間と違って空腹を知らないが、それ故に食事は生きるための義務ではなく、純粋な「楽しみ」だといえる。けれどもこんな気分では、どんなご馳走も到底楽しめそうになかった。
 歩いているうちに、何の店舗も入っていない小さな空き地の前に差し掛かった。その空き地の隅に、一本の桜の木が花を付けている。建物の陰になっているためか、幹も枝も細く頼りなげだが、そのか細い数本の枝にはしっかりと花が開いていた。
 ヒメ子は引き寄せられるようにその木に歩み寄った。ふいに風が吹いて、目の前ではらはらと花びらが舞った。花びらの雨の中で遠い記憶が巻き戻される。


ひぃ、ほら、桜の花だよ。ひぃの髪飾りとお揃いだよ……



「おいヒメコっ、何してんだ、こんなトコで」
 突然の背後からの呼び声で、ヒメ子は現実に引き戻された。振り返ると、頭の上に三つも酒樽を積んだニトロが立ち止まってこちらを見ていた。
「あ、にっちん」
「もうとっくに花見始まってるぞ。行かないのか?」
「え、えっと……」
 ヒメ子が言いよどんでいると、ニトロは何かを悟ったようにニヤリと笑った。
「ハッハーン、わかった、オマエ道に迷ったんだろ! うんうん、わかるぞー。自慢じゃないがアタシもしょっちゅう居場所がわかんなくなるからなっ!」
『先輩、ホントに全然自慢じゃないです。ていうか、油売ってないで早くお酒持ってきてください。こっちはもうスッカラカンです』
「はぁっ!? オマエら真っ昼間っからドンダケだよ!?」
『ええ、ですからみなさん、先輩がこちらに戻ってこられるのを今か今かと心待ちにしています』
「マジかっ、照れるじゃねーかオイ! よーし待ってろみんな! 千秋っ、ナビは任せたぞ!」
『ういーす』
「うっし、そんじゃトばすぞヒメコっ! 振り落とされんじゃねーぞっ!」
 そう言うとニトロは、今ひとつ話が飲み込めずキョトンとするヒメ子をひょいっと持ち上げ、頭上の酒樽の上に乗せた。
「えっ? ええっ!?」
「そいじゃしゅっぱーつ!」
「ええーっ!!?」
 目指すはみんなのいるお花見会場。BAR 5からの追加の酒とヒメ子を乗せて、全速前進するニトロであった。



ここまで書けたー。やばいコラボ楽しい。

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「じーんくーん! おーきーてーっ!」
 突然耳元で発せられた少女の大声によって、岩久古物店店長・岩久尽は心地よい眠りの底から無理矢理引きずり揚げられた。うつ伏せの寝姿勢を崩さぬまま、目だけをうっすらと開けて声の主を見ると、普段彼が肌身離さず抱いている日本人形のヒメ子が、焦れたように体を揺らしてこちらを見ている。
 岩久は少しの間ぼんやりとその様子を見ていたが、すぐにまた瞼を閉じて、規則的な寝息を立て始めた。
「じーんくーん! じんくんってばー!」
 ヒメ子はピョンピョンと飛び跳ねながらますます声を張り上げる。岩久は「うぅん」と声を漏らして寝返りを打ち、反対側を向いて眠りを継続しようとする。
「ねーえー、起きてよーじんくんっ!」
 焦れに焦れたヒメ子は、今度は寝ている岩久の上に乗ってピョンピョンと飛び跳ね始めた。流石に無視を決め込めず、岩久は怠そうに上体を起こした。
「じんくんっ、起きたっ?」
 ヒメ子は今日も元気いっぱいな様子で、無邪気に問いかける。そんなヒメ子とは対照的に、岩久は普段以上の低いテンションで訊ね返した。
「……ひぃ、あーしの記憶違いでなけりゃあ、目覚ましはまだ鳴っていないはずだけど?」
「うん、鳴ってないよ」
「そいでこいつも記憶違いでなけりゃあ、たしか今日は特別休業日のはずだねえ」
「うん、そうだよ」
「あァそいつはよかった。そいじゃあおやすみ」
 そう言うと岩久は再び布団をかぶって横になり、安らかな寝息を立て始めた。
「……もーおーっ! じんくんってばぁー!!」
 ヒメ子の目がカッと赤く発光した。次の瞬間、部屋中の雨戸やらサッシやら障子やら襖やらが一斉に開け放たれ、春の陽射しがさんさんと部屋になだれ込んだ。
「ちょっ……! こらっ、やめなさいひぃ! あーしが陽に弱いの知ってるでしょ!」
「知ってるからやってるんだもん」
 ヒメ子はむすっとした声で答える。すっかりおかんむりの様子である。
「何へそ曲げてるのさ……休みの日ぐらい寝かしてくれよ……てぇか何時なのよ今……」
 岩久は頭から爪先まで布団に潜り込んだ状態で、苛立ちを含んだ声でぼやいた。
「じんくん、今日のお休みは何のためだかわかってる?」
「そりゃあもちろん、日頃働いてる分までゴロ寝でしょうよ」
「ちーがーうーっ!」
 ヒメ子が怒鳴ると同時に岩久の掛け布団が宙に飛んだ。慌てて岩久がそれを引き戻す。
「お花見っ! 今日は商店街のみんなでお花見の日だよ! 回覧板来てたでしょー!」
「……あァ、そーいやそんな知らせが入ってたような」
「もうとっくに始まってるよ! ひぃたちもお花見行こーよ!」
「あー……、ひぃ、わかった、お花見行きたいのはよーくわかったから、とりあえず戸を閉めてくれ」
 ヒメ子はコクンと頷いた。部屋中の戸が一斉に閉まり、元通りの暗がりとなった。岩久はようやく安堵した面持ちで布団から顔を出し、体を起こした。
「みんなでお花見ねえ、いいじゃない。ひぃ、そういうの好きでしょう。行ってらっしゃいな」
「じんくんは?」
「あーしは遠慮しとくさ。家で寝てる方が性に合ってるし、何よりこの陽射しじゃねぇ」
 さらりと言い放たれたその言葉に、ヒメコの表情がみるみる曇った。
「……桜、きれいだよ?」
「まぁ夜でも見れるしなぁ」
「いろはさんとこのおにぎりとか、みっちゃんとこのお菓子とか、クロちゃんのラーメンとか、おいしいものいっぱいあるよ?」
「寝起きにそんな食えないしなぁ」
「大人の人にはお酒も出るって」
「酒なら大将の店で飲むさ」
「でもっ……」
「あー、ひぃ、すまん。ぶっちゃけ、タルイ」
 ヒメ子の言葉を遮って、岩久は見事にぶっちゃけた。こう言われてしまっては二の句が継げない。
「……もういいもんっ、じんくんのバカ!」
「はい、行ってらっしゃい。気をつけてなー」
 玄関の方から「ピシャン!」と乱暴に戸を閉める音が響いてきた。岩久は銀色の頭をわしわし掻いて、ゴロリと布団に横たわった。ほのかに春の陽のにおいが残っていた。



とりあえずここまで書けた。間に合うのかコレ。

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