上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2006.05.27 フタオ。・1
  1・夏の少年


 「あー、ヒマだなもうっ!」
 思わず独り言をつぶやいて、オレはごろんと寝転がった。
 ヒマだ。とにかく、ヒマだ。
 寝転がったまま目だけ動かして今居る家の中を見渡してみた。
 広いなあ。天井も高い。ウチの平らな天井と違って、屋根を支える骨組みみたいなの(はり、とかいうやつ?)が見える。……あ、蜘蛛の巣張ってら。蜘蛛ならまだ許すとして、蜂の巣なんかあったりしないよな? やだよ蜂は。なんせ飛ぶし刺すし怖いじゃん。
 しっかしヒマだ。なんでこう「おばーちゃんち」とかって何にもないんだろ。テレビはあるけど今の時間じゃどうせつまんないし。……あー、プレステやりてー! せめてゲームボーイ持ってくりゃよかったよ。持ってきたマンガ2冊じゃこの退屈はしのげない。
 「外にでも出てみよっか」
 ちょっとつぶやいて、すぐ考え直した。八月。時刻は一時半。真夏の太陽絶好調、気温もウルトラハイな今、用もないのに1人で外になんか出てどうするんだよ。
 今頃テツたちは何してるだろ。クーラーきいた部屋でジュースなんか飲みつつ格ゲーとか対戦してたりしないよな。プールとか行ってねーよな!? オレは1人寂しくばーちゃんちでヒマしてるとゆーのに……。
 おととい、オレは1人でここ、ばーちゃんちへやって来た。別に好きで来た訳じゃない。ウチは両親とオレの3人家族なんだけど、楽しい夏休み、さーて家族でお出かけでもしましょーかってこの時期に、お父さんが入院してしまった。お母さんは病院でお父さんの世話をすることになった。で、オレは、田舎送り。
「大丈夫よね。翔也はもう6年生だもんね。ちゃんとおばあちゃんの言うこと聞くのよ」
 お母さんはちょっと心配そうに言った。そりゃ、たしかにオレはもう6年だし、お母さんが居ないと寂しいなんてガキじゃない。けど、なんでよりによってこのばーちゃんちなんだよ!?
 この家がいやなわけじゃない。ここへは初めて来たようなもんだけど(前に一度来たらしいけどちっちゃい頃だから覚えてない)、これはこれで「おもむき」があっていいと思うよ。狭いマンションに慣れたオレにはちょっと新鮮だし。問題はばーちゃんだ。お父さんの方のばーちゃんはにこにこ優しいのに、こっちのばーちゃんはやたら元気でしゃきしゃきしてて……ぶっちゃけ怖いんだよなー、なんか。よく居るじゃん、名字に「ババア」付けで呼ばれる小うるさい先生。あれに近い感じ。
 今日はばーちゃんはお昼食ってすぐ出かけちゃった。ほっとしたけど、こんな家に1人ってのもヒマでしょーがない。
 くっそー、こうなったら日本人の憧れ「縁側で一句」とかやっちゃうぞ!?
 そんな半ばヤケな気分で縁側に行ったら、夏の日差しと共にある人影が目に飛び込んできた。
 目深にかぶった麦わら帽子で顔はよく見えないが、たぶん年はオレと同じくらいで、男。なんで勝手に人んちの庭に居るんだ? このへんに住んでるヤツだろうか?
「よう、お前、見ない顔だな。名前何ていうんだ?」
 よく通るいい声でそいつが話しかけてきた。
「え、オレ? 中川翔也……」
「村のヤツじゃないだろ」
「え、うん……お前はこのへんに住んでんの?」
「ああ、ここはいいとこだぜ。オレは気に入ってる」
 そいつはすたすた歩いて近寄ってきた。蝉の声がでかいせいか、全く音を立てずに来た気がした。
「ねえ、遊びに行こうぜ。どーせヒマだろ?」
「ヒマだけど……今一応留守番してんだ」
「よくゆーよ、あんまりヒマだから外へ行こうとか思ってたんだろ」
 ……げ、図星。そんな言い方をされてオレはちょっとむかついた。
「泥棒に入られたらオレのせいになるだろ。ウチのばーちゃん怖ぇんだぞ」
「……大丈夫。泥棒なんか入れない」
 そいつはにやっと笑って言った。なに言ってんだこいつ、と思ったが、なぜだかその言葉には妙な説得力があった。
 結局オレは誘われるようにしてそいつについてった。そいつはオレの手首をつかんでどんどん歩いていく。その手は夏だというのに妙に冷たい。
 どんどん歩いて、ばーちゃんちに来るとき側を通った、深い森の所に来た。
「やっぱ森はいいよなー、涼しくて気持ちいいぞ」
 そいつは森の中に入っていった。オレはちょっと気が引けたけど、そいつが呼ぶから仕方なく入った。中は幹が太くて背も高い木が茂ってて、昼間なのに薄暗い。
 それから俺たちは森の中を歩き回って虫を探したりして遊んだ。そいつはどんどん森の奥まで入ってくから、オレは心配になって何回か「迷わないか」と聞いたけど、そのたびにそいつは自信たっぷりに笑って、
「ばーか、オレはこの森のことなら世界一わかってるんだぜ」
 と言った。
 あっという間に夕方になった。
 帰りに、そいつはばーちゃんちの前までオレを送ってくれた。
「じゃあな。明日も遊ぼうぜ」
「うん。そういえばオレ、まだお前の名前きいてない」
「ああ、オレ?」
 風が吹いた。麦わら帽が風に飛んで、顔がはっきり見えた。きれいな切れ長の目をしている。
 そいつは上手く帽子をキャッチして、また目深にかぶりながら、ちょっと笑って言った。
「オレはフタオ。またな」
    
Secret

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。