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※ 【天屋通り】のお花見イベント参加用に下書きしたものです。  →完成版はこちら




 お花見会場には多くの組合員が集まり、満開の桜の天蓋の下で宴を楽しんでいた。
「おーい待たせたなっ、酒持ってきたぞー! ついでにヒメコも拾ってきた!」
 会場にニトロの威勢のいい声が響き渡り、一同の視線が一斉に集まった。
「ヒメちゃんだー! 待ってたんですよー!」
 ヒメ子に真っ先に駆け寄って抱きついたのは、ニトロが持ってきた酒樽の提供元であり岩久の行きつけの店でもある、BAR 5のイストである。
「い、いっちゃん、苦しいよぉ…」
「こらイスト、お前大概にしろっ! ヒメ子ちゃん困ってるだろ」
「わーっ、ヒメちゃんごめんなさいであります! そうだっ、お詫びに、吉牛さんの牛乳を使って新開発した『こどもビール牛乳割り』飲むですかっ?」
「な、お前いつの間に……美味いのかそれ……?」
「サー! 試飲はまだであります!」
「味見してないもん人に飲ますなー!」
「だははは! それよりワシの作った『ノンアルコール・毛生え養命酒牛乳割り』はどうじゃ?」
「お前もだよじじぃ!」
「だはははは!」
 三人による相変わらずの漫才のような掛け合いを見ているうちに、いじけていたヒメ子の気持ちもだんだんと上向いてきて、ほんの五分も経てばすっかり明るいヒメ子に戻っていた。
「はい、ヒメ子ちゃん。特製お花見おにぎりだよ」
「ヒメちん、こっちは特製お花見豆腐大島桜モデルですー」
「桜ロールケーキもあるのよ」
「菜の花おひたしと天ぷらもあるよー。って、ちょっとヒメ子ちゃんには渋すぎかなっ」
「えへへっ、ごちそういっぱいだ。ありがとー」
 ヒメ子は勧められたもの全部をニコニコ顔で平らげた。ヒメ子には空腹もないが満腹もないので、食べようと思えば底なしに食べられてしまう。ただ、「やりすぎると不審がられるから注意しなさい」と岩久に言い聞かされているため、一応ヒメ子としてはそれなりに気を付けてはいるようである。
 夢中になって食べて、食べ終わって急にやることがなくなると、満開の桜に包まれた目の前の光景が、まるで写真か何かのような、別の世界のもののように思えた。頭上を覆う桜の花々と、その下に集まる笑顔、笑い声。絵に描いたような美しい風景。絵に描いたような楽しい団欒。
 ざぁっと強めの風が吹いた。たくさんの花びらが舞い散って目の前の光景を掻き消し、かわりに魂の奥の奥に焼き付いたあの光景が、声が、想いが蘇る。


 ねえ、ひぃにも見える? 桜が満開だよ。とっても綺麗だよ……


 ごめんね。ひぃは、あなたの言ってる「ひぃ」じゃないの。
 ごめんね。それでも、ひぃはひぃなの。ここにいるの。
 ひぃは人形。あなたに大事にされて、こころを持った人形。
 ひぃは人形。死んでしまったあなたの妹に似せた、あなたの妹の代わりの人形。
 でも、ごめんね。ひぃはひぃなの。ここにいるひぃは、あなたの妹の「ひぃ」じゃないの。
 ごめんね。ごめんね。それでも、ひぃは……



「あァ、こりゃあ見事なもんだ」

 声が聞こえた。遠い昔の声ではない。よく聞き慣れた、ヒメ子の一番好きな声。
 振り返ると、宇宙服のような防護服に、眼鏡屋アンジェミーで特注したサンバイザー、つば広帽子に日傘という出で立ちの男が一人、桜を見上げて佇んでいた。
「だっ、誰だオマエ!? 不審者か!?」
 警戒心を顕わにニトロが言った。一同に緊張が走る。しかしヒメ子だけはその人物が誰かを知っていた。
「じんくんっ!」
 弾かれたようにヒメコが駆け寄り、防護服の上からぎゅっとしがみつく。そんなヒメ子の頭をぽんぽんとしながら一同を見渡すと、岩久はペコリと一礼し、場の空気など全く意に介さないようなマイペースな調子で言った。
「あ、どーも、みなさんお揃いで。いつもお世話になっとります、古物商の岩久です」



いつの間にやら日が暮れようとしている件。

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