上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  An Absurd Story・2


「いーい、今日はセンリの物を買うんだからね。荷物はヨロシクっ」
「御意……」
 センリがウチに来てから初めての週末、あたしたちは市内の繁華街に来ていた。
急に人一人やって来られたって生活用品が足りないわけで。男物の服は、父の遺品が少し残ってはいるけど、絶対サイズ合わないだろうし。
 こうして並んで街を歩いていると、センリの背の高さを改めて実感する。それになんとなく、道行く人の視線を感じるような。うーむ、そうなんだよなあ、スタイルいいし顔だって作りはいいんだよ。ただ惜しむらくは、どうもこの人はこう、しまりがないっつーかだらしがないっつーか……(出かけるにあたって無精ヒゲだけは剃らせてきたけどさ)。もっとシャキッとしてりゃそこそこイケてると思うんだけどな。もったいない。
 あたしたちは一緒にショッピングモールを見て回った。ときどき必要物資の調達という使命を忘れて、くだらない商品を見て笑ったり、派手派手な服を試着して笑ったり、キラキラのお花の髪留めを無理矢理センリの前髪にくっつけて笑ったりした。とにかく笑い通しだった。
「なんかのど渇かない? ちょっと寄ってこーよ」
 帰り際にコーヒーショップの前を通りかかったとき、カフェオレ好きのあたしが提案した。しかしお店に入ってみると、休日のせいか若者で混み合っていて、席は一つも空いていない。
「座れないねー。あたし行って買ってくるから、センリはあの辺で待ってて」
 あたしは店の裏側の人のいない通路を指定して、レジに向かった。表の通りだと人が多くて疲れるし、何よりセンリのことだから、オネーサン方に逆ナンされてもあのふざけたノリで意気投合しかねない。そんなことを想像したら、なんか知らないけど少しむかついた。
 二人分のコーヒーを持ってセンリに合流しようと歩いていると、右斜め前方でだべってた男が急に、勢い良くあたしにぶつかってきた。
「わっ」
「……あ?」
 ぶつかった男がアルティメット級の感じ悪さで振り向いた。
 げっ。あからさまにガラ悪いよコイツ。ドレッドだし眉毛薄いし鼻ピだしアゴヒゲだし。しかも自分からぶつかっといてキレ気味ですか。
「うわ、何? ねえ。汚れたんだけど、ねえ? あーほらシミになったよ、どーすんの?」
 げげっ。見た目のイメージ通り、早速からんできやがりましたよ。
「ねえ聞いてんの? どこ見て歩いてるわけ?」
「スイマセーン。大丈夫ですかあ?」
 そっちが前見てなかったんじゃん! という心のツッコミを抑えて、とりあえず精一杯の笑顔で応対してみる。お、穏便に行きましょうぜおにーさん……! 頼むよホント。
 しかしそんなあたしの想いもむなしく、ドレッド眉なしアゴヒゲ鼻ピ男はしつこくあたしにからみ続ける。
「は? 大丈夫なわけないんだけど。ほんとどーしてくれんのねえ?」
「どっ、どうするって言われても……」
 と、冷や汗ダラダラで見上げるあたしを、ドレ(略)鼻ピ男は急に黙って、じーっと品定めでもするみたいに見てから、にやっと下品な笑みを浮かべた。
「……いーよ? 許してやっても。ただし」
 鼻ピ男の腕がぐいっとあたしの肩を引き寄せた。
「タダで許してもらえるとは思ってないっしょ」
 かあっ、と、血が上っていく感覚がした。
「ちょっ……、はなしてよ、はなせ!」
「はなしてよぉ~はなせっ」
 鼻ピ男の仲間がふざけてあたしの言葉をまねた。ひゃはははっと笑う仲間たち。くっそーむかつく! こいつらバカにしてる……!
「はなしってってば! 人呼びますよ!?」
 あたしもいい加減頭に来て強い口調で言った。途端に、ニヤニヤしていた鼻ピ男から笑みが消えた。
「うるせーよクソガキ。殴んぞ?」
 鼻ピ男の殺気立った目に、思わず足がすくんだ。
 どうしよう。怖い。
 鼻ピ男はあたしが怯えたのを見て、満足したようにまたニヤニヤ笑いだした。
「おとなしくつき合えって。したら乱暴なことはしねーよ。お前だってボコられるよりゃヤられる方がずっといーだろ? 仲良くや」
「何アホぬかしてんだボケ」
 鼻ピ男の言葉を遮って、聞き覚えのある低い声がした。と同時に、ゴンッという鈍い音を立てて、鼻ピ男のドレッド頭にローファーのかかとが直撃した。
その場に倒れる鼻ピ男。どよめく仲間たち。その中心にそしらぬ顔して立っている長身の男。
「センリ!」
 そう、センリだ。どこからどうやっていつの間に来たのかわかんないけど、まぎれもなくセンリだ。
 センリはいつも通りにへらっと笑ってあたしに言った。
「いやー、来るのが遅れてゴメン、りほ。まーこのセンリさんが来たからにゃー大安心」
 いやっセンリ、後ろ後ろ!
「だ」
 言うのと同時に、仲間Aのパンチがセンリの頬にヒットした。
 えええ――― !? おいおいおい!
「なんだね若人ら! 喋ってる間に殴るとは卑きょ」
 センリは拗ねた子どものように反論した。その間に仲間Bの攻撃もヒット。おいおいおいおい!
こ、コイツを頼っていいんだろうか、あたし……。
「なんだコイツ弱ぇし!」
 鼻ピの愉快な仲間たちは調子に乗って一斉にセンリに襲いかかった。
 あああ危ない! あぶないセンリ!!
「逃げてセンリ!!」
 あたしは力の限りに叫んだ。と、次の瞬間。
「御意」
 耳元でセンリの声がして、ふわっと体が宙に浮いた。
「アレ!? ちょっ、アイツどこ行きやがった!?」
 鼻ピの仲間たちが動揺してキョロキョロしているのが眼下に見える。…あれ? 眼下? えっと、ここは?
「おかしいな、どこにも……ってうおっ!? いつの間に!?」
 仲間Cが後ろを振り返って、あたしたちに気付いたようだ。
 そしてあたしも気付いた。どうやらあたしはセンリに抱きかかえられて、センリともども塀の上にいるらしい。
「まあ気にするな」
 そんなすっとぼけた返事をして、しゃがんでいたセンリが立ち上がった。わわっ、視界が更に高くなった。
「……いいかいジャリンコ諸君。俺はべつに正義の味方じゃないしお前らの人生もどーだっていいから、お仕置きもお説教もしない。ただし」
 センリはそこで一旦言葉を区切ってから、重々しく続きを言った。
「俺の大事なりほに傷でもつけようもんならお前ら、二度とおうちに帰れないと思え?」
 鼻ピ仲間たちの顔色が一瞬にして青ざめた。彼らは誰からともなく後ずさって、一目散に逃げ出していった。
 っていうか……っていうか……「俺の大事な」!?
「大丈夫? りほ」
 呆けてるあたしを覗き込んでセンリが言った。
「だっ、だだ、大丈夫! 全然! バッチリ!」
「そりゃあよかった」
 センリはにこっと笑った。なんだろう、胸が苦しくなった。


 ああ本当に、なんてトンデモ物語。
 まるで出来過ぎたおとぎ話だ。
 でも、あたしはどうやらこの物語に、完全にハマってしまったようだ。





Secret

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。