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  An Absurd Story・5



「……よかったの? センリ」
 もう暗くなった帰路を辿る途中で、切れかかった電灯の下、ぽつりとあたしは口を開いた。
「え?」
「あの人と一緒に戻んなくて」
「ああ……」
 センリはいつものノリで笑って答える。
「いいのいいの、かまやしないって。俺こう見えて約束は守る男よ?」
「…………」
「……どした、りほ?」
 黙り込んでしまったあたしを、怪訝そうにセンリが覗き込む。初めて会ったときから変わらない優しい黒い瞳。その優しさが、今は苦しい。
 センリは優しい。でもその優しさは、つくりものなの?
 優しくしてくれるのも、守ってくれるのも、あたしが主だから?
 センリが来てから毎日楽しくて、まるで家族が出来たみたいで、仲良くいられてそれが嬉しくて、だけど、それはただのあたし一人の勘違いなんだろうか。
 仲良くなれたなんて勘違いで、センリと本当に仲良くなんて、あたしには一生なれないんだろうか。
 それなら、優しくなんてしてくれなくていい。
 あたしが欲しいのはそんなのじゃないのに。


「……いいんだよ? センリ。無理に守ってくれなくたって」
 ぽつりぽつりと、弱い心が言葉を漏らす。
「えっ、イヤ無理はしてないけど?」
「無理じゃなくても、あたしのこと守りたいわけじゃないんなら守んなくていいんだよ?」
「りほ……?」
「あの人から聞いたよ。センリってすごい用心棒だったんだね。だからあたしに守るって言っちゃった以上は守らなきゃってことなんでしょ? 守りたいとか守りたくないとか、そーゆうんじゃないんでしょ?」
 こんなこと言ったって仕方がないのに。わかってるのに。
 言葉が洪水になって、止まらない。
「……どしたのさ、急に…………」
「いいから答えてよ、そうなんでしょ!?」
 センリはしばらく黙ってから、影を落とすようにすうっと静かに言葉を発した。
「そうだな、たしかに違ってはない。仕事と私情は別だから……。誰であっても主のことは守るよ」
 予想通りの答えだった。弱いあたしのぐちゃぐちゃな心が、更にマイナスに傾いていく。それともあたしは、違う答えを期待してたんだろうか。あたしだけは特別だって、甘い期待でもしていたのか。
「なんか……ヤダなそれ。冷たいよ、そんなの。うわべばっかで中身がからっぽじゃん」
 ばかみたいだ。こんなこと言って何になるんだろう。
 こんなこと言うつもりじゃないのに。
「あたし、そーゆーの大っ嫌い!」
 センリは黙っていた。黙ってうつむいていた。しばらく黙って、ふっと笑って、小さく、優しく、「そっか」と言った。


 「そっか」で、済んだ。


「なんでよっ……怒ればいいじゃんなんで怒んないの!? あたし今超ひどいこと言ったんだよ!? 主だからって何言っても許すの!?」
 めちゃくちゃだ。あたしの言い分。
 めちゃくちゃだってわかってるのに。
 わかってる、のに。
「その手の言葉ならもう、言われ慣れてるから」
 センリは落ち着いたまま、ただ静かにそう答えた。


 ばかみたい。


「もういいよ……守ってくれなくて……」

 もうやだ。

「え……でも約束が……」

 あたし一人でばかみたい。

「だったら今ここで破棄する!」

 ばかみたい。





 短くて永い沈黙だった。
 センリはもう笑わなかった。



 もう、声が出ない。



「契約解消、だな……」
 熱のない声でセンリが呟いた。
 もうあたしを見てはくれなかった。
 あたしもセンリを見れなかった。
「……お世話になりました、日向理保さん」
 最後にセンリが言うのを聞いた。

Secret

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