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  カタナガリ・6


「ごめんな、トラ……」
 ハズミはためらいがちに、地面に座り込んだままのトラに声をかけた。
「やだなあ、なんで謝るのさ」
「……おれ、トラを、守れなかった」
 うつむいてつぶやく顔が歪んでいる。
「大丈夫か、トラ……?」
 ハズミは自分を責めていた。トラへの攻撃を許してしまった不甲斐ない自分を。
油断していた。氷月のことに気を取られて、周りを見失ってしまっていた。そのせいで、危うく、トラを見殺しにしてしまうところだったのだ。
「なーに辛気くさい顔してんのよ」
 トラはにかっと笑って、馬鹿に明るい声で言った。
「全っ然余裕だよん」
 そう言うと、トラは片肌を脱いでみせた。着物の下に鎖帷子を着込んでいる。
「いやー、備えあれば憂い無しってこのことだね」
 トラはヘラヘラ笑っている。刀治とハズミは一気に脱力した。
「ずいぶんと用意周到なこったな……」
 刀治は疲れた顔で苦笑した。一方ハズミは、
「よかった……」
 心から安堵した表情でつぶやいた。それを見たトラは柔らかく微笑んだ。
「よし!」
 元気良くハズミが言った。すっかりいつものハズミに戻っている。
「それじゃあとりあえず、今回は一件落着だな!」
「いや、まだだろ」
 和やかムードをぶち壊すようなトゲのある声で言って、刀治はトラの胸ぐらを掴んだ。
「まだコイツの取り調べがすんでねえ」
「えっ、お、俺?」
「ちょっとトウジ! 何やってんだ!?」
 戸惑う二人を無視して刀治は問い質す。
「すっとぼけてんじゃねえぞネコ野郎。どうしててめえが富豪んとこの妖刀なんか持ち歩いてやがった」
「え、ああ、んっと、それは……」
 トラは口ごもって、困ったように首筋を掻いた。
「はじめから、どうも信用ならねえと思ってた。てめえは何者だ?」
 刀治はじっとトラを睨み続ける。いつものトラなら適当に笑ってごまかすところだが、このときはそうせず、真顔のままでその目を見つめ返した。
「……イチトラ」
 短い沈黙の後、トラは口を開いた。
「浮葉壱寅(ウキハ イチトラ)。今度は本名だよ」
「てめえ……偽名使ってやがったな」
 刀治はぴくっと口元を引きつらせた。
「初対面でいきなり本名は名乗れないっしょー」
 相変わらずの、冗談か本気かわからない笑顔でトラが返す。
「え、そういうもんなのかトウジ?」
「馬鹿、コイツの言うことを真に受けるな」
「あ、それひどくない?」
「ひどくねえ」
 あははっ、と、トラは笑った。彼がよくやる作ったような笑いとは、少し違っているようだった。
「ちょっとは信用してって。この期に及んで嘘はつかないよ。本名名乗ったのって、ここ十年ではあんたたちが初めてなんだから」
 そう言って、トラは空を見上げた。その表情は清々としている。
「本業の薬屋の他に、ちょっとした雑用の仕事もやっててさ……あれっ、こっちが本業かな? ……まあどっちでもいいんだけど。それで今日は、富豪の依頼を受けて刀を運んでたんだ。まさかそれが妖刀だなんて夢にも思わなかったけどね」
 嘘をついているようには見えない。刀治は一応信用することにした。
「じゃあてめえは、妖刀と知らずに運ばされてただけで、何か企んでたってわけじゃねえんだな?」
 刀治が念を押す。トラはくすっと笑った。
「残念?」
「ほざけ」
 刀治は一言悪態をつくと、くるっとトラに背を向けた。
「そろそろ行くぞハズミ」
 そう言って、刀治は一人歩き出した。その腕を、昨日と同じようにトラががっしり掴む。
「待ってよ、何かお礼を」
「いらん。離せ。さっさと俺の前から消えろ」
「そんなこと言わずに。こっちは二度も命救われてんスよ? お礼くらいさせてって」
 刀治は振り切って進もうとするが、トラはがっちり掴んで離さない。
「ああもう、何なんだてめえは! 一体何がしてえんだ!?」
 業を煮やして刀治が怒鳴った。トラは大真面目な顔で答える。
「あんたたちの手伝い」
「はあっ!?」
 予想外の突飛な発言に、刀治は彼にしては最大級のリアクションで返した。
「俺は、思いやりも根性もそんなにないし、ろくでもない奴だけどさ、二度も命を救ってもらった恩を返さずにいられるほど、恩知らずでもないんだよね」
 トラはまっすぐ刀治の目を見て言った。
「手伝わせてよ、刀狩り。戦うのは得意じゃないけど、裏で動くのは大得意よ? ちょっとは役に立つと思うな」
「冗談じゃねえ。てめえなんか連れてって俺に何の得がある。おいハズミ、見物してねえでコイツをひっぺがせ!」
 言われて、傍観していたハズミは二人に近づき、隣に立ってトラに言った。
「トラ、気持ちは嬉しいけど、連れてくわけにはいかないんだ。おれたちの問題に、関係ないトラを巻き込むわけにはいかない。わかってくれ」
「ハズミちゃん……」
「ごめんな」
 ハズミに言われて、トラは黙った。
「そっか……そうだよね……」
 うってかわってしおらしくトラはつぶやく。
「……ああ、でも、残念だなあ……薬屋の俺なら怪しまれずに情報収集できるのになあ……怪我に良く効く薬もあるのになあ……」
 ぴくっと刀治の肩が動く。
「ああ、残念だ……こんなことなら、昨夜もっとたくさん料理を作るべきだった……まだ振る舞ってない絶品レシピは、まだまだたくさんあるのになあ……」
 ギラッとハズミの瞳が光る。
「特に今の季節は、木の実も豊富で、おいしいお菓子が作り放題なのになあ」
「……おいっ、ハズミ、さっさとコイツを……」
 ハズミはさらに二人に近づいた。そして。
「お、おい、何のつもりだ」
 ハズミは刀治の脚に後ろからしがみついた。
「いいじゃないかトウジ。せっかくこう言ってるんだから、ここはトラの意思を尊重すべきだと思うぞ」
「ハズミてめえ……また裏切んのか」
「だって、トラが仲間になれば美味い飯が食えるし、情報収集もスムーズになるし、美味い飯が食えるし、万が一の時に薬で対処できるし、美味い飯が食えるし、人数が多い方が都合のいいこともあるし、美味い飯が食えるし!」
「飯ばっかじゃねえか!」
「だっておれトラの作る飯大好きだ!」
 ハズミは悪びれもせず言い放つ。トラはにっこり笑った。
「ほら、こちらの銀髪美女もこう言ってることだし、遠慮しなさんなって」
「しなさんなって」
 言うまでもなく、復唱したのはハズミである。刀治は疲れ切った様子で、深く深く溜息をついた。
「……わかったよ……てめえらの好きにすればいいさ…………わかったから行くぞ」
 トラとハズミは、顔を見合わせて「しししっ」と笑った。
(面倒な旅になりそうだぜ……)
 刀治は心の中でつぶやいた。
 それが諦めを意味しているのか、それとも違う要因によるものか……おそらく本人すら知らないだろうが、その顔は少し、笑っていた。


                               カタナガリ・終



まあ、中二病です(・・・)
読んでくださってありがとうございました。

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