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2008.08.19 フタオ・4
   4・狐の神様

 その夜、布団に入っても寝付けなかったオレは、起きあがって台所でお米をといでたばーちゃんに尋ねてみた。
「ねえねえばーちゃん!」
「なんだい、まだ起きてるのかい」
「ねえっ、ばーちゃんが言ってた神様って、どんなやつ!?」
「ええ? あんた全然興味なさそうだったじゃないか」
「いいから教えて!」
 ばーちゃんは怪訝そうに首を傾げて答えた。
「二尾狐様だよ。二本の尻尾と不思議な力を持つ狐の神様さ。二百年くらい前からここの守り神とされてるそうだね」
「ふたおぎつね……」
 オイオイ、マジで!? まんまだよ……。
「ねえ、そいつって子供?」
「ええ、子供? さあねえ、神様に大人とか子供とかってあるのかねえ?」
「……ありがとばーちゃん、おやすみなさい」
 間違いない。フタオのことだよ絶対。うん、そんな気がする。100パー間違いないって……いや、94パー……76パー……待てよ、もっと低い……? だって……ねえ。そんな非現実的な話ってある? 今はもう21世紀だよ? ……あー、でもやっぱり……。
 結局その夜はあんまり眠れなかった。
 次の日、いつものように遊びに来たフタオに、オレは思い切って訊いてみることにした。
 フタオは指で帽子をくるくる回しながら、口笛を吹いて歩いている。
「……ねえ、ひとつ訊いていい?」
「んー? なんだショーヤ?」
「あのさフタオ……お前って、ひょっとして……」
 フタオは足を止めて、真顔になってオレを見た。
「神様……なのか……?」
 オレの質問にフタオはすぐには答えなかった。一瞬の沈黙があった。やがてフタオはくすくす笑って歩き出した。
「そんなんじゃねーよ。何言ってんだよショーヤ」
「……だよなっ!」
 オレもつられて笑った。一気に緊張が解けた。そうだよ、馬鹿げてる。フタオが守り神の二尾狐だなんてさ。
「神なんてのは村のヤツが勝手に言ってる気休めのこじつけさ。オレはただここが気に入って居着いてるうちに、気が付くと二百年経ってただけ」
 フタオは笑いながらさらっと言った。あんまり普通に言うから、一瞬聞き流しそうになってしまった。
「……え!? 二百年!?」
「なんだよ、気付いてるんじゃなかったのか?」
「じゃっ、じゃあ、やっぱりお前……!?」
 フタオはニッと笑ってオレの手をひいた。
「そんなことより川へ行こうぜ。冷たくて気持ちいいぞ」




 フタオの正体を知ってからも、オレはそれまで通り毎日フタオと遊んだ。それはフタオにとっては意外だったみたいで、あるときぽつりと言ってきた。
「変わってんなー、お前って」
「オレが? フタオよりは変わってないと思うけど」
「怖くないのか? オレのこと……」
「え、怖くねーよべつに。なんで?」
「なんでって……気味悪いとか思わないのか?」
「べつに。だってお前悪いヤツじゃないし、全然神様っぽくないし、遊んでると人間と変わんないもん」
「でもオレ、狐の化け物だぞ」
「なんだよしつこいなー、怖がってほしいのかよ。オレはフタオを怖がったりしねーよ。ずっと遊ぼうって言ったじゃん」
 オレがそう言うと、フタオは驚いた顔をした。それからぷっと笑って言った。
「ほんっと変わったヤツ! オレ、二百年ちょいの時間を過ごしてきたけど、お前みたいなヤツ初めてだよ」
 ……そうかなあ? オレは普通なつもりだけど。
「それより気になるのはさー、お前、子供じゃん。なんで二百年も生きてて子供なの?」
「あー、それは、オレには体がないからさ」
「あるじゃんここに」
「そうそう。オレほどにもなると肉体の有無なんて大した問題じゃないんだな。わかるかいショーヤくん」
「わけわかんねー!」
 フタオはひひっと笑った。オレも笑った。
「二百年かー、長いよなー……。だって二百年前つったら、オレのばーちゃんのばーちゃんの……そのまたばーちゃんも生まれてなくない?」
「えっ、そんなに!? へー、そりゃ長いや……」
 フタオは自分のことなのに他人事みたいな反応をした。
「ばーちゃんっていえば、ウチのばーちゃん、昔は『おみっちゃん』って呼ばれてたんだな」
「ああ、おみっちゃんはオレが見てきた中で一番かわいかったよ。おさげ髪がよく似合ってた」
「へえ……ばーちゃんがねえ」
 今のおっかないばーちゃんからはとてもじゃないけど想像つかない。
「ああ、ほんっっっっとにかわいかった」
「しゃべったこととかないの?」
「そっ、そりゃそーさお前っ、村一番の美少女だぞ!? 気安く声なんかかけられるかよ!」
 フタオはちょっと赤くなって言った。オイオイ。
「じゃあさ、オレのお母さん……佐藤和代は? あと清美おばさんとか。昔の写真けっこうかわいかったけど、しゃべったりした?」
「え、……ああ、かわいかった。でもオレ、髪の長いコが好きなんだ」
「オイオイオイ! なーにが神様だよまったく!」
 オレは思わず笑ってしまった。けどフタオは思ったより笑ってなくて…なんだか少しかげのある微笑を浮かべて言った。
「まあ、それは冗談にしてもさ……。村のヤツは『二尾狐』にびびってるから……」
 あっ……、と、オレは口をつぐんだ。
 そうか、だからオレやゆかねえの前に現れたんだ。フタオはずっと……寂しかったのかもしれない。             


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