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2008.08.19 フタオ・5
   5・GOD OR MONSTER

 夕方になって帰ろうとしたとき、ちょうど近くを人が歩いてきた。森から出てきたオレはその人の真ん前に出てしまった。なんだか真面目そうなおじさんだ。
「驚いたな。こんな所から人が出てくるなんて」
 そのおじさんは目を丸くして言った。
「君、見かけない子だね。夏休みで遊びに来てるのかな?」
「え、うん。おばーちゃんち……佐藤ミツ子の家に……」
「佐藤さんのお孫さんなんだ? おじさんはこのへんの町会長をしてるんだ。佐藤さんにはいつもお世話になってるよ」
 オレと行く方向が同じらしくて、一緒に歩きながらいろいろ話しかけてくる。
「このへんは気に入った? あんまり田舎でびっくりするだろう」
「うん、ちょっとね。でもけっこう好きだよ。なんかほら、夕方聞こえるやつ……今も鳴いてるこれ、この声もウチよりよく聞こえるし」
「ああ、ひぐらしか。おじさんも好きだよ、日本の夏って感じがするよね」
 どうでもいいけどこの町会長さん、なーんか先生っぽい感じの人だ。
「しかし驚いたよ。森の中にいたのかい? あの森のことは聞いた?」
「うん。二尾狐っていう神様が居てオバケもいっぱいのオバケ森、でしょ?」
「ははは、オバケ森か。知ってて怖くないのかい?」
 怖くなんかない。なんたってその神様と友達だし。他にオバケもいるみたいだけど、悪いヤツはいないから心配いらないってフタオが言ってた。……なんて、そんなことこの人には言えないけどさ。
「ねえ町会長さん、みんなはあそこを……二尾狐を怖がってるの?」
「そうだね。ときどきほこらの管理に入る意外は誰も近寄らないよ」
「なんで怖いの? ここを守ってくれる神様だろ?」
「そういうことにしたんだよ、昔の人がね。むかーしむかし、森に現れた二本の尻尾の狐の化け物に村人は恐れおののき、退治しようとしたらしい」
「退治!?」
「うん。だが二尾狐は傷一つ負わなかった。そこで村人たちは、神としてまつることで二尾狐のご機嫌をとろうとしたんだね。恐れたからこそ丁重にまつった。それから二百年、神としてあがめられてきたと言うより、怖い化け物として恐れられてきたって言った方が正しいかな」
 ……なんだよそれ。
「ねえ、みんなそうなの? 中にはそんな昔話信じないって人とか、二尾狐は怖いヤツじゃないって思ってる人とか……いるんじゃないの?」
「うーん、どうだろう。ここの人はちっちゃい頃から二尾狐の話を聞かされて育ってるからね、みんな信じてるんじゃないかな」
 なるほどね、それじゃフタオも村の人となんかしゃべれないわけだ。でもフタオは、ほんとは……。
「オレは、二尾狐は悪いヤツじゃなくて守り神だと思うな。だって二百年間ずっとここを見守ってくれてるんだから」
 オレがそう言うと町会長さんはちょっと驚いたようにこっちを見てから、ふっと笑って「そうだといいね」って言った。だーかーらぁ、そうだといいじゃなくてそうなんだってば!
 次の日になってもまだ釈然としない気持ちが残っていた。フタオが怖い化け物? 神様ってことにしてご機嫌取ってる? なんだよそれ。フタオが人に怖がられるようなことをするなんて思えない。
 どうしてもすっきりしないから、オレはちょっと遠慮がちにフタオに言ってみた。
「昨日、町会長って人に、『二尾狐』のこと聞いたんだけどさ……」
「オレのこと? 勝手に守り神にした化け物だって?」
 フタオが意外にあっけらかんと言うもんだから、オレも思わず遠慮がなくなった。
「なんか変じゃねー!? 勝手に怖がったりまつってみたり。聞いててちょっとムカついた!」
「ばーか。どっちかっつーとお前のが変なんだぜショーヤ。普通は怖がられても仕方ないの」
「だってフタオ、なんか怖がられることしたの!?」
 フタオはちょっと困ったようにあごをぽりぽりかいた。
「そうだなぁ……たしかあのとき……なんか知らないけど急に人間たちに囲まれて一斉攻撃なんかされたから、少し頭に来てやり返したけど……」
「やり返したって……殺したの!?」
「まさか! そんなことするかよ。ほんのちょっと吹っ飛ばしてやっただけ。それでも十分びびったらしくて、あんなほこらなんかこさえてくれちゃったよ。でもなショーヤ、オレは何もしなくたって怖がられる。そういうもんさ」
「……そういうもんなの?」
「そういうもんなの。いちいち腹立ててたらきりがないぜ。そうだ、このへんでは親の言うことを聞かない子供に何て言うか知ってるか? 『二尾狐に手足取られちゃうぞ』って言うんだぜ。おかしいよなー」
 笑えるかー!! きっととんでもなくぶすっとした顔をしてたんだと思う。フタオが困った顔でオレをのぞき込んだ。
「ひょっとして本気で怒ったか? ……ごめん」
「なんでフタオがあやまるんだよ」
 フタオはぶすーっとしてるオレを見て、ふっと笑って言った。
「ほんっといいやつだなお前。オレはべつに気にしてないからお前も怒らなくていいよ。機嫌直せって」
 なだめるように言って、オレの頭をぽんぽんってした。……ってオイ、なんでオレがなぐさめられてんだよ。
 とりあえずその話はそれで終わりにした。言っても仕方のないイヤな話をするより、楽しく遊んだ方がいい気がした。もうすぐ夏休みが終わる。その前にお父さんが退院してウチに帰ることになるかもしれない。お父さんには早く良くなってもらいたいけど……もうあんまりフタオとは遊べないだろう。
 でもオレはこのときはまだ、まさかこの日が最後になるなんて思ってなかったんだ。
 そう、予想できるはずもなかった。この日、これから起こることなんて。                 


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